滑舌練習「外郎売り」の以外な効果

伝える

「外郎売り(ういろううり)」は、アナウンサーや俳優が滑舌練習で取り入れています。

二代目市川団十郎が外郎売りに扮して登場し上演したのが始まりとされ、それから、市川家の十八番になっています。

「拙者親方と申すは、お立合いのうちに・・・」という、およそ現代にはなじみのない言葉が続きます。

 

 

外郎売りが人気に

この「外郎売り」は、古典的なため、当初、授業に取り入れていませんでした。

しかしあるクラスでやってみたのです。

そうしたところ、意外な反応が!!!

「おもしろい」というのです。

ええ?若者がこれをおもしろい?

驚きました。

それから、毎回、授業で練習していたら、学生たちは全文を覚えてしまいました。

全文といっても、普通の会話のスピードで読むと5分半ほどかかるかなりのボリュームです。

廊下で男子学生とすれ違った時、笑顔で

「とうちんこう、とうちんこう」と。

外郎売りが売る薬の名前「透頂香(とうちんこう)」です。

「先生!頭からとうちんこうが離れません!おかしくて(笑)」

 

言葉に体当たり

私は、「外郎売りは、意味を考えないで、とにかく音にぶつかって読もう」と呼びかけました。

大人になると、どうしても頭で意味を考えたくなる。

⇒意味を考えないと言葉が出ない

⇒死んだ身体になる

 

これは、教育原理で習ったことです。

子供はひらがなだらけの言葉も発することができます。

例えば、谷川俊太郎さんの「ことばあそびうた」

ののはな

はなののののはな

はなのななあに

なずななのはな

なもないのばな

大人は意味がわからないと読み進めません。

こどもは読めてしまうのです。

新幹線が通った時、子供は「しんかんせんだ!」と身体に新幹線の勢いが乗り移ったように声を発します。これが身体が生き生きしているってことなんですね。

先日も、市川海老蔵さんの小さな2人のお子さんが、カメラに囲まれながら「外郎売り」を披露していました。意味より先に言葉が体に入っているんだな、と感心して見ていました。

 

意味を考えずに声にする意味

「いのちの往復書簡」(中央公論社)という本を読みました。

僧侶でもある玄侑宗久さんと、ガンを体験したエッセイスト岸本葉子さんの、それは美しい日本語で綴られた本です。

玄侑さんが、意味を考えないで声を発することの大切さをおっしゃっていました。

お経を唱えるお坊さんは、長生きが多いとも。(もちろん、お坊さんは意味を学ばれていらっしゃいますが)

書簡を受け取った岸本さんは「般若心経」を言えるようになろうと挑戦します。

岸本さんは、すぐ覚えたそうです。

しかし、「どうしても音だけでは覚えられません。漢字を見て覚えました。」というような内容を返信していました。

 

これは面白い!と思って、私も般若心経を覚えることに挑戦しました。

音だけで覚えられるかの挑戦です。

かなり時間はかかりましたが、ついに覚えました。

 

「外郎売り」は、滑舌や発声練習として用いられますが、私は、学生にそれ以外を期待しているところが大きいです。

人生でつらい時がくると思います。

そんな時、頭を空っぽにして、「外郎売り」を口ずさんで欲しいと思います。

言葉に体当たりできた自分を思い出して欲しいと思います。

 

今、学生に伝えているのは、就職先で一人一芸を披露しなきゃいけない時は「外郎売り」の一節をやってみるのもいいよ!と言ってますが。

 

「お茶立ちょ、茶立ちょ、ちゃっと立ちょ茶立ちょ・・・」(外郎売り)

ここは苦手で、上手く言えません。

たのしく外郎売り、練習しま~す!