「大勢に話しかける」は無い

伝える

「伝える」ことに関する素晴らしい本と出合いました。「声が生まれる 聞く力・話す力」 竹内敏晴著(中公新書)です。

私が、これまで「伝える」「話す」ことについて、釈然としなかった部分が、見事に説明されていて、さらに深く知りたくなりました。

その部分については、またの機会にお伝えしようと思います。

今回は、本の中から、ある一節をご紹介します。基本の考え方ですが、私を含めた多くの人が、認識していなかった部分ではないでしょうか。

(抜粋)

「大勢に話しかけるにはどうしたらいいのですか」という問いが出たことがある。「大勢」に話しかける、ということはないのではないですか、というのがわたしの答えである。話しかけるときは、必ずだれか一人にはなしかけることだ。教室でなら、一人の子どもに話しかける。その子が答える、その子の答えに対してまた問いかける、その子が考えこむ、口ごもる。それを待つ。あるいは助け舟を出す。そういう受け答えをまわりの子が立ち会って聞いていると、自分の中でも問いに対する答えをさがしたり、答えている子をちょっと違うとか、そうそう、と応援したりする。それが授業の場に起こることではないか?

著者の竹内敏晴氏は、幼少の頃から耳が聞こえませんでした。薬が開発されて、当時の中学4年生の時に、聴力を得ます。そうした体験の中から、聞こえるとはどういうことか、話すとはどういうことか、をかなり深く追求し、体得されてきました。

上の抜粋の部分を、本の前後と合わせて読んでいくと、さらに奥深い意味合いがあることがわかります。

話しかけているつもりでも、相手に到達していない人がなんと多いことか、というのです。

竹内氏は「大勢に話しかけることはないのではないか」と。

声を相手に届けるために、並々ならぬ苦労をし、それと正面から向き合ってきた竹内氏だからこそそこまで言い切れる言葉です。

授業をする先生でも、プレゼンテーションをする人でも、一人に届けることなくして、何も届くはずはないのでしょう。