ドミニク・チェンさんの著書「未来をつくる言葉 わかりあえなさをつなぐために」(新潮社 2020年1月20日発行)を読みました。
私の能力では難解で、1割もわかったかどうか。
が、
読んでいて、何と心地よいのか。
「文を読むこと」の楽しさがありました。
小説のような美しさで、言語学や文化人類学やコンピューター、哲学などなど、垣根を取り払って論じています。
ドミニク・チェンさんの自伝的な内容も語られ、ある部分ではエッセーのような軽快さもありました。
このような著書は初めてです。
「遺伝子学上ではアジア諸国の混血でありながら、東京でフランス国籍者として生まれ、幼稚園から在日フランス人の学校に通い始めた。」という著者が、言葉を話す時の感覚。
吃音であるドミニク・チェンさんが、言葉を発する時の思考。
日本語しか話そうとしなかった娘に、フランス語を話すように仕向けた小芝居のシーン。
モンゴルの遊牧民と過ごした日々。
とにかく、日本語の文章が美しくて、読んでいるだけで、美しい絵画を鑑賞した時に感じる喜びに似た感覚がありました。
情報技術は、人間の社会にもとより存在する傾向を強化しているに過ぎない。わたしたちは自己の身体という原初のフィルターバブルを持って生まれてくるのだ。
それでも、「言語」の持つ力によって、世界を覆う多種多様さをつなぎとめ、それらの間を行き来することができる。複数の文化に包まれてきたわたしは、こどもの頃から今に至るまでそのような言葉に心を動かされてきたし、おそらく、これからも同じようにフィルターバブルを越境する術を探していくだろう。
未来をつくる言葉 197頁
「自己の身体」というフィルターバブル・・・
私は、この言葉が強く印象に残りました。
私も、「フィルターバブルを越境する術探し」をしたかったのではないか。
その言葉を著書からもらっただけでも、読んで良かったと思いました。
著者の紹介に「1981年生まれ。・・・早稲田大学文化構想学部准教授。一貫してテクノロジーと人間の関係性を研究している」とあり、著者の写真を見ると、とてもかっこよくステキな男性でした。