口が開かない現代人
口が開かない、特に若い女性にその傾向が大きいように感じます。
柔らかいものを食べるせいか、スマホで会話が成立するため会話量が減っているせいか、目立つことを避けてきたせいか、原因はわかりませんが。
若者に対して、口の動きをこれまで、あまり指導してきませんでした。
(理由は後で述べています)
しかし、声がなかなか前に出ません。
そこで、再び基本に戻り、母音の口の動きを確認しました。
口の動きも変遷?
どの口の形が正しいか、
調べると、母音の口の形が、最近、変わってきているのです。
例えば「う」の口の形でみてみましょう。
私がアナウンサーになった当初、使っていた本は
「日本語の発声レッスン 俳優編」(著者:川和 孝氏 新水社)でした。
1981年に発行された本です。
そこでは「う」の口は、「唇の両端を中央へやや寄せる」とあります。
「たった1日で声まで良くなる話し方の教科書」(著者・魚住りえ 東洋経済)では
「チューの形で口をすぼめるが、少しゆるめて」とあります。
ある講座のテキストでは「唇を前に突き出す」とあります。
ところが、
NHKアナウンサーの山田敦子さんと村上里和さんが書いている「魔法の朗読法」(日東書院)には、
「う」は「くちびるを突き出さず、口の両端をきゅっと締めましょう。」とあるのです。
「お」以外、「あ」から「え」までくちびるの横幅は全部同じ。
NHKのアナウンサーは「口を大きく開けすぎないほうがいい。」となっているそうです。
「口をしっかり動かしましょう!」の指導方法は古いのかもしれません。
そういえば、かつて、若手男性アナウンサーがあるアナウンス講習会から帰って来てから、しばらく、口の動きが不自然におおげさにになってしまい、見苦しくなってしまったことがありました。「おかしいよ、その口の動き」「でも、講習会で大きく口を動かす、と習いました。」なんてやりとりがありました。元に戻すのに苦労しました。
口の動きを練習する意味は?
NHKのそうした傾向を考え、私は、学生に対して、口の動きの練習を積極的に取り入れてこなかったのです。
しかし、あまりに口が開かない上、声が響かないため、最近、もう一度練習してみたというわけです。
顔には約30の筋肉があるそうで、それを鍛えなければ表情豊かにならないといいます。
あがり症の人は、声とともに口の動きが小さい傾向にあります。
練習の時だけは、大きく口を開ける練習をする意味はあると思います。
続けていれば、高齢になった時、誤嚥性肺炎を防ぐことができる、というメリットもあります。
声がなかなか前に出ない学生に、「上の前歯を見せる意識でしゃべってごらん」とアドバイスしたら、声が少し遠くに届くようになりました。
口の動きを考えながら、日常会話をする人はいないと思いますが、しゃべることはバイオリンを奏でることと同じで、いい音を出すには、練習が大切ですね。